宇宙では過去数十億年にわたり、新たな星を生み出す活動が劇的に衰退してきました。星の材料は水素ガスであるため、かつては「宇宙全体で燃料が使い果たされ、底をつきつつあるのではないか」と考えられていました。しかし、中国の500メートル球面電波望遠鏡(FAST)と米国の分光探査(DESI)が連携し、約250万個の銀河を対象に行った電波観測によって驚くべき事実が判明しました。過去約45億年の間、宇宙に存在する「原子水素ガス」の総量はほとんど減っていなかったのです。
燃料が保たれているのに、なぜ星の誕生ペースだけが激減したのでしょうか。その根本的な答えは、「星になるのは冷たく濃いガス(主に分子雲)であり、宇宙に豊富にある温かい原子水素ガスが、星を生み出す濃密な状態へと移行できなくなっていたから」です。星形成の減速の主因は、燃料の枯渇ではなく、燃料を星へと加工する物理プロセスの停滞にありました。本稿では、電波天文学が解き明かした宇宙の燃料事情と、原子水素が残り続ける物理メカニズムを論理的に解説します。
宇宙の星づくりが急減した45億年と「減らない燃料」の観測事実
私たちの宇宙では、約100億年前(赤方偏移 z \sim 2 付近)をピークに、銀河が新しい星をつくる活動の勢いが低下し続けています。単位体積の宇宙空間の中で1年間に生まれる星の総質量を表す指標を「宇宙星形成率密度(Cosmic Star Formation Rate Density: SFRD)」と呼びます。本研究が焦点を当てた過去約45億年の時間スケールにおいて、この宇宙星形成率密度は、過去側(約45億年前)が現在側の約2.46倍に達していました。つまり、わずか45億年の間に、宇宙全体の星づくりのペースは半分以下へと急激に落ち込んでいたことになります。
星の生産が急減しているとすれば、原料である水素ガスも同様に減っていると予想されます。ところが、FASTとDESIの共同研究チームが導き出した宇宙全体の原子水素密度(\Omega_{\mathrm{HI}})の推移は、この予想を大きく覆しました。観測データから得られた生の測定値では、過去側の原子水素密度は現在側の「1.35 \pm 0.10倍」にとどまり、さらに観測装置の特性や選択効果を模擬カタログによって補正した評価では「1.12 \pm 0.10倍」という値が得られたのです。
この測定値は、「原子水素ガスの量が全く変化しなかった」ことを意味するわけではありません。統計的な誤差を含めればわずかな減少傾向は見られるものの、星形成率密度が約2.46倍から1へと急落したことに比べれば、原子水素密度の変化はあまりにも小さく緩やかです。天文学ではこの現象を「弱い進化(Weak evolution)」と呼びます。
この観測結果を正しく理解するためには、研究が設定した条件を把握しておく必要があります。研究チームは過去約45億年間を連続して追跡したわけではありません。人工衛星や地上通信による電波干渉(RFI)が激しい周波数帯を避け、赤方偏移 0 < z < 0.09(現代に近い近傍宇宙)と 0.25 < z < 0.41(約30億〜45億年前の宇宙)という2つの区間に絞り、全体を4つの赤方偏移区分(z = 0〜0.05、0.05〜0.09、0.25〜0.32、0.32〜0.41)に分割して、それぞれの時代に存在する異なる銀河集団を統計的に比較しました。
また、本研究が導いたのは「宇宙全体を足し合わせた体積平均」である点にも留意が必要です。銀河団のような過密な環境にある個々の銀河では、周囲の高温ガスによる圧力でガスを外へ剥ぎ取られたり、星形成が停止(クエンチング)して局所的なガス欠に陥ったりする現象が日常的に起きています。しかし、個々の銀河の変動を宇宙全体で均してみると、原子水素という巨大な燃料プールそのものは決して枯渇していなかったのです。
なぜ「原子水素があるのに星が生まれない」のか――星間ガスの物理
宇宙全体の原子水素ガスが保たれているにもかかわらず、星の誕生だけが急減した理由を解く鍵は、星間ガスが星へと生まれ変わる物理条件にあります。
水素は宇宙のバリオン(通常の物質)の約75%を占める最もありふれた元素ですが、宇宙空間において水素は単一の状態ではなく、主に以下の3つの相を行き来しています。
- 電離水素(H II):周囲の強い紫外線などによって電子が剥ぎ取られ、陽子と電子が電離した高温・希薄なプラズマ状態。
- 中性原子水素(H I):陽子と電子が結びついた中性の原子状態。銀河の円盤部から外縁部に広く分布し、温度は数百〜数千ケルビン程度。
- 分子水素(H2):2つの水素原子が結合した分子状態。星間塵の影に隠れた極低温(数十ケルビン以下)かつ高密度のガス雲に密集する。
星が生まれるためには、ガス自身の重力が、熱運動によって外側へ広がろうとする「熱圧力」に打ち勝って収縮しなければなりません。この重力崩壊の条件を示す物理原理が「ジーンズ不安定性(Jeans instability)」です。ガスが自らの重力で収縮を始めるために必要な最小質量(ジーンズ質量)は、ガスの温度が高ければ高いほど莫大になり、密度が高ければ高いほど小さくなります。
数百ケルビンから数千ケルビンもある温かい原子水素ガスの状態では熱圧力が強すぎるため、広大で超巨大な質量が集まらない限り重力収縮を起こせません。星をつくるためには、ガスが放射によって熱を逃がして数十ケルビン以下まで「十分に冷却」され、さらに引力によって「高密度化」する必要があります。
現代の典型的な銀河環境では、ガスが冷たく高密度になると、水素原子同士が星間塵の表面で結合して水素分子(H2)へと姿を変えます。そのため、天文学の観測現場において、活発な星形成領域は例外なく冷たい「分子雲」として発見されます。
理論天文学者のGloverとClarkらによる2012年の数値シミュレーション研究は、この関係に重要な知見を与えています。彼らの計算によれば、星形成の引き金を引く本質的な物理条件は「ガスが十分に冷却され、高密度に圧縮されること」そのものであり、化学的に分子の形をとっていること自体が重力崩壊の直接の推進力というわけではありません。しかし、通常の銀河星間空間では、冷却・高密度化が起きる領域と分子が形成される領域が物理的にほぼ一致します。
したがって、「宇宙に原子水素ガスが豊富にあっても、それが冷たく濃密な状態へと移行できなければ星形成には直結しない」という結論が導かれます。原子水素は星の原材料ですが、冷やされ圧縮されなければ、星という形に結実することはないのです。
250万個の銀河を重ね合わせた電波観測の手法
宇宙全体の原子水素の総量を測る作業は、電波天文学において極めて難度の高い挑戦でした。遠方宇宙の原子水素を捉えることがなぜ困難であり、研究チームはどうやってそれを克服したのでしょうか。
原子水素ガスが放つ固有のシグナルは、波長21センチメートル(周波数約1420メガヘルツ)の電波です。これは中性水素原子の陽子と電子が持つスピンの向きが、平行から反平行へと反転する超微細構造遷移によって放射されます。
しかし、このスピン反転は量子力学的に「禁制遷移(磁気双極子遷移)」と呼ばれる極めて稀な現象です。1個の中性水素原子が自発的にスピンを反転させて21cm波を放射するまでには、平均して約1100万年(半減期換算で数百万年以上)もの時間を要します。宇宙空間には無数の水素原子が存在するため近傍の銀河であれば電波を捉えられますが、数十億光年離れた遠方の銀河になると、1つひとつの銀河から届く電波は微弱すぎてノイズの中に完全に埋もれてしまいます。
これまで遠方宇宙の原子水素は、明るいクエーサーの手前を横切るガスが光を吸収する影を捉える手法(減衰ライマンアルファ吸収線系:DLA)などによって調べられてきました。しかし、DLAは宇宙空間の細い視線方向を局所的に調べる観測であるため、銀河集団全体の平均的なガス量を系統的に導き出すことには限界がありました。
この壁を打ち破ったのが、中国貴州省にある世界最大の単一電波望遠鏡FAST(FASHI探査)と、米国メイヨール望遠鏡に搭載された最新分光器DESI(Dark Energy Spectroscopic Instrument)の組み合わせです。研究チームは、DESIの光学分光探査によって位置と正確な赤方偏移が特定された2,473,945個(約250万個)もの銀河のデータを活用しました。
個々の銀河からの電波が見えないのなら、約250万個の信号を足し合わせて浮き上がらせる――これが「スタッキング(積算解析)」の手法です。DESIの分光データによって各銀河の赤方偏移が精密に分かっているため、宇宙膨張によって引き伸ばされた21cm波がどの周波数に届いているかを逆算できます。その周波数を基準に約250万個の銀河の電波スペクトルを重ね合わせて加算平均を行いました。受信機が拾うランダムな雑音(ノイズ)は、重ね合わせる銀河の数(N)の平方根(1/\sqrt{N})に比例して小さくなります。その結果、個別には検出できない21cm波のシグナルが、高いSN比(信号対雑音比)で明確に浮かび上がったのです。
ただし、スペクトルを平均しただけで直ちに宇宙全体の水素密度が求まるわけではありません。研究チームは以下の手順で宇宙密度を導出しました。
- 恒星質量ビンごとの平均ガス比率の算出:銀河を恒星質量(M_*)ごとにグループ(ビン)に分け、各ビンでスタッキングを実施して、恒星質量に対する原子水素質量の平均比率(M_{\mathrm{HI}}/M_*)を算出しました。
- 恒星質量関数による宇宙空間全体の積算:宇宙の単位体積の中に各恒星質量を持つ銀河がどれだけの個数密度で存在するかを表す「銀河恒星質量関数(GSMF)」を用い、求めたガス比率を宇宙の体積全体で掛け合わせて積算しました。
- 宇宙原子水素密度(\Omega_{\mathrm{HI}})の導出:これにより、特定の明るい銀河だけでなく、宇宙全体の空間に存在する中性原子水素の総質量密度を統計的に導出しました。
さらに、スタッキング解析ではランダム雑音は打ち消せても、偏った系統的なズレは自動的には消えません。本研究では以下の2つの系統誤差補正が行われました。
- ビーム混同補正(Beam confusion correction):単一鏡であるFASTの電波ビーム径(約2.9分角)は広大であるため、ビーム内に標的以外の銀河が入り込んで電波を上乗せしてしまいます。研究チームは模擬銀河カタログを作成して混入割合をモデル化し、余分な電波を差し引きました。
- 光度選択バイアス補正(Photometric selection bias correction):DESIのような光学分光探査は原理的に一定以上の明るさを持つ銀河を選んで観測するため、暗い銀河が見落とされる偏りが生じます。この見落とし分についても理論モデルとシミュレーションを用いて慎重に補正されました。この補正によって、生の1.35倍という数値はより信頼性の高い1.12倍へと是正されたのです。
なお、この測定が捉えているのは中性原子水素(H I)の21cm線放射のみであり、分子水素(H2)や電離水素、暗黒物質などは対象に含まれていません。
なぜガスは星へと向かわなくなったのか――議論されている4つの仮説
FASTとDESIの観測が確定させたのは、「過去約45億年の宇宙において、原子水素ガスの密度が星形成率密度の急落に反してほとんど減っていなかった(弱い進化にとどまっていた)」という観測事実です。
ここで科学的に厳密に区別すべき点があります。「原子水素が豊富に残っていた事実」が判明したことと、「なぜそのガスが星になれなかったのかという理由」が直接解明されたこととは別問題です。
今回の電波観測は分子ガスそのものを捉えたわけでも、銀河内部でガスが冷える過程を画像として直接追跡したわけでもありません。星形成が停滞した物理的原因は、現在の天文学において議論されている未解決の仮説の段階にあります。有力な原因候補として検討されている主な仮説は以下の4つです。
- 原子の冷却・分子転換効率の低下(Conversion Inefficiency)
銀河内に原子ガスが存在していても、それを極低温まで冷やして濃密な分子雲へと転換する効率そのものが宇宙の進化とともに低下したという説です。星間塵の量やガス圧力、星間放射場のバランスが変化したことで、原子ガスが分子雲へと相転移するペースが鈍り、原料が原子のまま滞留したと考えられます。
- ガスの空間的隔離・外縁部への残留(Spatial Segregation)
原子水素ガスが、星をつくる現場から離れた場所に存在しているという説です。多くの渦巻銀河において、原子水素ガスは星が存在する中心円盤部だけでなく、そのはるか外側の外縁部にまで広がっています。外縁部はガスの密度が希薄なため、ジーンズ不安定性による重力収縮の閾値に達しません。ガス自体は銀河にあっても、星をつくれない外縁部に偏って孤立しているため星になれないというシナリオです。
- 銀河中心核や恒星による加熱フィードバック(Energetic Feedback)
銀河中心の超巨大ブラックホール(活動銀河核:AGN)が噴出するジェットや放射、あるいは大質量星の超新星爆発によって、銀河の星間ガスがかき乱され加熱されているという説です。エネルギーが注入され続けるとガスは高温に保たれ熱圧力が高まるため、冷たく濃密な塊へと凝縮することが妨げられます。
- 宇宙の大規模構造からのガス流入の鈍化(Starvation / Strangulation)
銀河は宇宙の大規模構造(コズミック・ウェブ)のフィラメントから新鮮なガスの供給を受けて成長しています。しかし、宇宙膨張とともにフィラメントからのガス供給が細くなったり、銀河を取り巻くダークマターハローの中でガスが高温に加熱されたりすることで、銀河中心部へ注ぎ込む冷たいガスの補給路が断たれてしまったという仮説です。
これら4つの仮説のどれが主因であるのか、あるいは複数が複合的に作用しているのかは、今後の研究課題です。
なお、アルマ望遠鏡(ALMA)等を用いた一酸化炭素(CO)輝線による独立した分子ガス観測からは、「宇宙全体の分子ガス(H2)の密度は、星形成率密度の低下とおおむね並行して減少している」という傾向が示唆されています。原子水素(H I)が減らずに分子水素(H2)が減っているのだとすれば、原子から分子へのステップにボトルネックが生じているという解釈は整合的です。ただし、異なる望遠鏡と手法による分子ガスのデータを、今回の原子ガス測定と定量的に直接突き合わせる検証は、現在も進行中の課題となっています。
概念図の読み方と注意点――観測と解釈の境界線
本稿で解説してきた物理プロセスと観測手法の関係を整理するために、概念図を参照しながらデータを見る際の重要なポイントと注意点を確認します。

上の模式的な時間比較と、下の未解決の物理過程を分けて読むことが大切です。図の線や天体像は原論文の実測グラフや観測写真を再現したものではありません。
第一に、上段の二本の線は、過去約45億年に宇宙の原子水素(H I)の量が比較的小さく変わった一方で、星形成率密度が大きく低下したという傾向を示す模式線です。FASTとDESIが星づくりの全工程を直接測ったわけではありません。右の望遠鏡と銀河像も、多くの銀河を調べる観測の考え方を示す説明用表現です。
第二に、下段の『原子水素から分子ガスを経て星へ』という流れは、星形成に関わる一般的な過程を整理したものです。原子水素がなぜ多く残ったか、分子ガスへ移る条件や効率が時間とともにどう変わったかは、この研究だけでは確定していません。破線の矢印は仮説的な過程を示し、分子化の阻害を直接測った証拠ではありません。
第三に、原典論文(arXiv:2607.05326v1 Fig. 3)における数値グラフの表示形式への留意です。 原典の図では、過去から現在にかけて急激に下降する「宇宙星形成率密度(SFRD)」の曲線と、緩やかな横ばいに近い「宇宙原子水素密度(\Omega_{\mathrm{HI}})」のデータ点が1枚のグラフに重ねて描かれています。これは両者の時間変化のトレンド(傾きの違い)を視覚的に比較しやすくするために、星形成率密度の数値を表示上の便宜としてスケール調整(定数倍)したものです。星形成率密度(単位体積・単位時間あたりに生まれる星の質量)と原子水素密度(臨界密度に対する原子ガスの質量比)は単位も次元も異なる物理量であり、同じ縦軸の実測値として絶対量を直接比較することはできません。
今後の展望:次世代電波干渉計SKAへの期待
宇宙の原子水素ガスが銀河のどこに、どのような状態で取り残されているのかを解明するには、FASTのような単一鏡によるスタッキング解析を超えて、個々の銀河内部を電波で解像する観測が必要です。 南アフリカとオーストラリアで国際共同建設が進む次世代巨大電波干渉計群「SKA(Square Kilometre Array)」は、集光力と空間分解能を飛躍的に向上させます。SKAであっても遠方宇宙のすべての暗い銀河を個別に撮像できるわけではありませんが、中間赤方偏移(z \sim 0.3〜0.4)の比較的明るい銀河であれば、原子水素ガスの空間分布を直接画像化できると期待されています。原子水素が銀河の外縁部に偏在しているのか、中心部で加熱されているのかという問題は、将来の観測によって決着がつくはずです。
よくある疑問と誤解(FAQ)
本研究の成果に関して生じやすい典型的な疑問について、3つの質問に絞って回答します。
Q1. 原子水素ガスが残っているなら、宇宙の星づくりはいずれ復活するのでしょうか?
A. その可能性は極めて低いと考えられています。 星づくりのペースが落ちたのは、燃料が枯渇したからではなく、ガスが冷えて凝縮するための力学的な条件が失われつつあるためです。現在の宇宙は加速膨張を続けており、大規模構造のフィラメントから銀河へと新鮮なガスが供給される勢いは過去に比べて大幅に弱まっています。また、銀河内部でも恒星風やブラックホールの活動によってガスがかき乱され、加熱されやすい環境が続いています。宇宙に漂う原子水素ガスを再び急速に冷却・圧縮して星形成を再燃させるような外的な物理機構は見当たらず、星形成はこのまま静かに減速を続けると見られています。
Q2. 「ガス欠で星形成が止まった銀河」があることと、「宇宙全体の原子水素が減っていない」ことは矛盾しませんか?
A. 矛盾しません。「個々の銀河の現象」と「宇宙全体の平均値」の違いです。 銀河団のような環境では、銀河が高温ガスの中を高速で移動する際に受ける動圧(ラム圧)によって、星間ガスが外へと吹き飛ばされる現象(ラム圧剥ぎ取り)が発生します。ガスを失った銀河は星形成を停止(クエンチング)し、個別の銀河としてはガス欠になります。しかし、吹き飛ばされたガスは消滅したわけではなく、銀河の外側の空間に移動したにすぎません。宇宙全体の体積で積算すれば原子水素の総量(\Omega_{\mathrm{HI}})としてそのままカウントされます。一部の銀河が局所的に燃料を失うことと、宇宙全体で原子ガスの貯蔵量が保たれていることは完全に両立します。
Q3. 21cm線の観測を行えば、宇宙にあるすべての水素を測定できたことになりますか?
A. いいえ、測定できたのは「中性原子水素(H I)」だけです。 宇宙の水素には、電子が剥ぎ取られた「電離水素(H II)」や、極低温で結合した「分子水素(H2)」など異なる状態が存在します。21cm波は、中性水素原子のスピン反転によってのみ放射される特有のシグナルです。したがって、電離したプラズマや分子ガス、星や惑星の内部にある水素、暗黒物質などはこの電波を出さず、測定対象には含まれません。宇宙の星間物質の全貌を捉えるには、21cm線の電波観測に加えて、ミリ波や紫外線など異なる波長を組み合わせた観測が必要です。
結び:燃料の総量から「相転移の効率」へ
過去約45億年の宇宙において、星形成率密度の急落(過去側が現在側の約2.46倍)に対し、宇宙原子水素密度は極めて緩やかな変化(系統誤差補正後で 1.12 \pm 0.10 倍)にとどまる「弱い進化」が明らかになりました。
この発見の最大の意義は、銀河の星づくりを決定づける要因が、燃料の「絶対量」から、原子ガスが冷え凝集して星に至る「物理プロセスの効率」へと移行した点にあります。約250万個の銀河の電波を重ね合わせて見抜いたこの成果は、星形成失速のボトルネックがどこにあるのかを浮き彫りにしました。宇宙に残された原子水素の行方と詳細な分布は、次世代電波干渉計SKAなどの新たな探査によって解き明かされていくことになります。
出典・参考資料
- 原著プレプリント: arXiv:2607.05326v1
- 学術誌刊行版 (Nature Astronomy): DOI: 10.1038/s41550-026-02965-9
- プレスリリース (EurekAlert!): https://e3.eurekalert.org/news-releases/1142061
