3分でわかる要点

星のまたたきを三行で

  1. 1星はほぼ完全な点光源として見えるため、大気の乱流が作るが光路と明るさを絶えず変化させ、として知られる「シンチレーション」が生じる。
  2. 2惑星は地球から見ると小さな円盤状の広がりを持つため、多数の光路が同時に網膜に届き、ゆらぎが互いに打ち消し合って明るさが安定して見える。
  3. 3地平線に近いほど光が大気を長く通過するため、またたきは強くなる。天文台が高地や宇宙に置かれるのはこの影響を減らすためである。

01 · 出発点

星は「点」として届く

夜空に輝く恒星は、太陽を除けばどれも地球から途方もなく遠い。その距離のために、どれほど大きな望遠鏡で見ても恒星は実質的に点光源として映る。光は宇宙空間をほぼ真空の中で進んでくるあいだは乱されないが、地球の大気圏に入った瞬間から事情が変わる。大気は均質な媒質ではなく、温度や密度が場所ごとに異なる無数の「セル」が絶えず動いている。

点光源から来る光は、観測装置の開口全体に波面として届く。その波面を乱流が曲げ、局所的に集光・散開させるため、見かけの方向や明るさが変わる。星にはゆらぎを平均できるほどの角度方向の広がりがほぼない。これが「シンチレーション」、すなわち星のまたたきの正体だ。

FIG. 02またたきが生まれる四つの段階
FIG. 02 · 星の光が地上の観測者に届くまでの過程を四段階で示す。各段階で大気の影響がどのように加わるかを追うことができる。

02 · 仕組み

大気の屈折率ゆらぎが光を曲げる

光の速度は媒質の屈折率によって変わる。大気中では温度や湿度の違いが屈折率の微妙な差を生み出し、光はその境界でわずかに曲げられる。大気の乱流セルは風によって絶えず形を変えるため、屈折率の分布も時々刻々と変化する。その結果、星から届く光の波面は平坦ではなく、でこぼこに歪んだ状態で地上に到達する。

歪んだ波面は、観測者の瞳や望遠鏡の開口部において干渉を起こす。ある瞬間には光が集中して明るく見え、次の瞬間には分散して暗く見える。この明暗の変動が毎秒数十回の速さで繰り返されるため、人間の目にはまたたきとして知覚される。大気の状態が穏やかな夜には変動が小さく、嵐の前後には激しくなる傾向がある。

03 · 比較

惑星の円盤が揺らぎを消す

惑星は恒星とは根本的に異なる見かけを持つ。太陽系内にあるため地球との距離が比較的近く、望遠鏡で見ると小さいながらも面積を持つ円盤として解像できる。肉眼では点に見えるが、その「点」は実際には無数の微小な点光源の集合体だ。円盤上のそれぞれの点から来る光は、大気の異なる領域を通って目に届く。

異なる光路を通ってきた光は、それぞれ独立したゆらぎを受けている。あるセルが光を暗くしようとしても、別のセルが別の光路を明るくしている。これらが同時に重なり合うことで、ゆらぎが統計的に平均化される。結果として惑星の見かけの明るさは安定し、またたきがほとんど感じられない。これは星と惑星を見分ける実用的な手がかりにもなる。

04 · 条件

地平線に近いほど大気は厚くなる

星が天頂付近にあるとき、その光が通過する大気の厚さはほぼ最小になる。しかし地平線に近づくにつれて、光は大気を斜めに横切るため、通過する経路が大幅に長くなる。通過距離が長いほど、光が乱流セルに出会う機会が増え、屈折率のゆらぎを受ける回数も多くなる。地平線付近の星が激しくまたたき、色まで変化して見えるのはこのためだ。

同じ理由で、大気の影響を最小限に抑えたい天文台は標高の高い乾燥した場所に建設される。チリのアタカマ砂漠やハワイのマウナケア山頂が世界有数の観測地として選ばれているのは、薄く安定した大気層の上に立てるからだ。さらに根本的な解決策として、ハッブル宇宙望遠鏡のように大気圏外に望遠鏡を置く方法もある。

FIG. 03星のまたたきを三行で
FIG. 02 · 星の光が地上の観測者に届くまでの過程を四段階で示す。各段階で大気の影響がどのように加わるかを追うことができる。

05 · 応用

またたきを補正する適応光学

天文学者たちは大気のゆらぎを受動的に受け入れるだけでなく、能動的に補正する技術を開発してきた。「」と呼ばれるこの技術は、波面センサーで大気の歪みをリアルタイムに計測し、変形可能な鏡を毎秒数百回以上動かして歪みを打ち消す。ESOやNOIRLabが運用する大型望遠鏡には、この装置が標準的に搭載されている。

適応光学の基準星として、明るい恒星が使われることが多い。しかし観測したい天体の近くに適切な星がない場合、レーザーを大気中に照射して人工的な「ガイド星」を作り出す手法が用いられる。レーザーが大気上層のナトリウム層を励起して輝かせ、その光を波面センサーの基準にする。この技術によって、地上望遠鏡でも宇宙望遠鏡に匹敵する解像度が得られる場合がある。

06 · 展望

大気との対話は続く

適応光学は目覚ましい成果を上げているが、補正できる視野の範囲や波長帯には依然として制約がある。大気の乱流は三次元的に分布しており、一つの基準星から得られる情報だけでは広い視野全体を完全に補正することは難しい。複数のレーザーガイド星を組み合わせる「多共役適応光学」など、より高度な手法の研究が続けられている。

またたきは天文観測の障害である一方、大気科学の窓でもある。星の光のゆらぎを詳細に解析することで、大気の乱流構造や風のプロファイルを推定できる。観測の邪魔者として長年扱われてきた現象が、大気そのものを理解するための道具に変わりつつある。夜空を見上げるたびに、私たちは地球の大気が光と交わす絶え間ない対話を目撃していることになる。

07 · 出典

参照した資料

本記事は以下の資料に基づいている。いずれも査読済みの研究機関または国際天文台が公開した公式の解説資料である。

  1. 01
    ESO · How do astronomers untwinkle the stars?

    欧州南天天文台(ESO)が公開する展示解説。適応光学の原理と、大気のゆらぎを補正するための技術的アプローチをわかりやすく説明している。

    公式解説
  2. 02
    ESO · Twinkle, twinkle little star, but not on our watch

    ESOの公式ブログに掲載された解説記事。星のまたたきの原因と、天文台がそれをどのように克服しているかを一般向けに紹介している。

    天文台解説
  3. 03
    NOIRLab · Introduction to Adaptive Optics

    NOIRLabによる適応光学の技術入門資料。波面センサー、変形可能な鏡、レーザーガイド星など、補正システムの構成要素を詳しく解説している。

    技術入門資料
更新履歴2026年8月27日 · 初版公開(第1号五言語版)